
厳かながら、どこか温かい雰囲気の本堂 photo by Remi Fukuda
九十九里町観光大使・かのんぷ♪と、九十九里町地域おこし協力隊が取り組む連載企画
かのんぷ♪×九十九里町地域おこし協力隊 特別企画 vol.11
【九十九里と、編む。】
この地に移り住む人、働く人、子を育てる人――暮らしの言葉を丁寧に紡ぎ、「九十九里」という地域の輪郭を描く対談シリーズ。
第11回のゲストは、九十九里町小関にある顕本法華宗妙覚寺の住職・河野時巧さん。妙覚寺は1504年に現在地で再建され、500年以上の歴史を持つ。日本地図の作成で知られる伊能忠敬が幼少期を過ごした地でもある。約20年にわたり化学の教員を務めた後、僧侶に転じた河野さんは、本堂でのコンサートや子ども食堂など、檀家以外の人にも開かれた寺づくりを続けている。
── 木造の本堂に響く音色
かのんぷ♪中村里衣(以下、里衣)「本堂やホールに、いろいろな作品が飾られていますね」
河野「本堂とホールは60〜80人ほどが入れる広さです。壁には絵画や掛け軸、つぼ、線で描いた仏画などを飾っています。九十九里で海の家を営んでいた女性が、60歳を過ぎてから描き始めた地元の風景画もあります。ご縁のある地域の方からお預かりした作品も多いです」
かのんぷ♪中村大介(以下、大介)「お寺でコンサートを開くようになったきっかけは?」
河野「30年ほど前、境内の塔頭(たっちゅう)『常泉坊』に住んでいたカナダ人の大学の先生が、『帰国する前にお寺でコンサートを開きたい』と言ってくれたのが始まりです。それから年1回、クラシックを中心にした花まつりコンサートを続けています」
花まつりコンサートは2026年で第28回を数えた。
里衣「木造のお寺は、音の響きがとても心地いいですよね」
河野「木の建物ならではの柔らかい響きを、皆さんに楽しんでもらえる場になっていると思います」
河野時巧住職 photo by Remi Fukuda
── 化学の教師から僧侶へ
大介「住職になる前は、どんな道を歩んでこられたんですか」
河野「生まれも育ちも九十九里です。地元の東部中学校に通っていましたが、当時は1学級55人で9クラスもあるマンモス校でした。その後、埼玉大学の理工学部応用化学科に進んで化学を学びました」
卒業後は教員免許を取得し、東京の私立中学校と千葉県立高校3校で約20年にわたり化学を教えた。
河野「時代の移り変わりとともに、子どもたちの反応や接し方が変わってきたと感じるようになりまして。46歳で教職を退き、京都の本山で1年半の修行を積んでから、寺を継ぎました」
里衣「先生からお坊さんに。大きな決断ですね」

住職の話に耳を傾ける photo by Remi Fukuda
── 地域に「開かれたお寺」へ
住職に就いた河野さんは、新しい本堂や客殿を生かし、地域の人が集まれる場づくりに取り組んだ。寺の公式サイトによると、本堂は1981(昭和56)年に再建。2002(平成14)年には客殿や食堂、台所を新築している。
河野「当時、お葬式は各家庭で行うことが多かった。お寺でもできるように食堂などを整えて、檀家さんや地域の方が使いやすい形にしました」
約20年前には、地域を元気にしようと「九十九里浜マラソン」を立ち上げた。初回は地元の商工会のメンバーらと一緒に企画し、運営も担った。

語りかける姿はかつての教師の面影も photo by Remi Fukuda
── 伊能忠敬が育った地
大介「伊能忠敬ともゆかりがあると聞きました」
河野「幼い頃、三治郎と呼ばれていた伊能忠敬は、このお寺の裏手で生まれ育ちました。当時のお寺は寺子屋の役割も果たしていましたから、ここで学び、和算に触れていたのかもしれませんね」
寺の公式サイトによると、忠敬は小関村で生まれ、10歳まで過ごした。当時の妙覚寺の住職に数学などを学んだと伝わり、境内の墓地には小関家の先祖の墓碑がある。
河野さんは地元の「九十九里歴史研究会」のメンバーと共に、忠敬に関する資料や文献を集めている。幼名にちなんだ「三治郎文庫」の構想も進めているという。
里衣「日本地図の原点が、このお寺のすぐそばに」

住職と話をすると自然と笑顔に photo by Remi Fukuda
── 子ども食堂がつなぐ多世代
約5年前にはNPO法人「コネクト99」を立ち上げ、約3年前から寺で子ども食堂を定期的に開いている。
里衣「子ども食堂には、どんな方が来られますか?」
河野「生活に困っている家庭を支えることだけが目的ではありません。子どもや親、お年寄りまで、いろいろな世代が自然と集まってきます。一緒にご飯を食べて、おしゃべりをして、おもちゃで遊んで。そんな温かい場所になっています」
ハロウィーンパーティーや季節の行事のほか、年4回は小さなジャズコンサートも開き、毎回60〜80人が訪れる。
大介「音楽が、世代を超えて人をつなぐきっかけにもなっている」

音楽でつながる photo by Remi Fukuda
── 海水から塩を炊き、街の「余白」を生かす
現在の檀家は約500軒。80歳を迎えるにあたり、河野さんは寺のこれからを見据える。
河野「お寺がこれからも地域に開かれた『文化の発信地』であり続けられたらと思っています」
趣味で九十九里の海水から塩を炊き上げ、地域の人たちに配っている。
里衣「お寺で塩づくりまで。驚きました」
河野「江戸時代から続く癒やしの文化や、この街の余白を生かしていきたい。若い人に入ってきてもらったり、空き家を活用したり。何より大切なのは、地域の活動を続けていくことだと思います」

展示物の紹介 photo by Remi Fukuda
── 九十九里を一言で表すと
大介「最後に、九十九里を一言で表すと?」
河野「何もない、ゆったりとした景色と時間、でしょうか。それが九十九里の魅力だと思います。だからこそ、ここに暮らす一人一人が、自分の言葉でその魅力を発信していくことが大切です」
里衣「私たちも、自分たちの言葉で伝えていきたいと思います」

話は尽きない photo by Remi Fukuda
Interviewer:かのんぷ♪ 中村大介 中村里衣
Photo:福田玲美
Location:妙覚寺