特集

【九十九里と、編む。】
「可能性」 活動20周年 「和太鼓 風-KAZE-」稲垣葵・稲垣昌良さん夫婦に聞く、音と土地の物語

大太鼓の前で  photo by Remi Fukuda

 九十九里町観光大使・かのんぷ♪と、九十九里町地域おこし協力隊が取り組む連載企画
 かのんぷ♪×九十九里町地域おこし協力隊 特別企画 vol.8

【九十九里と、編む。】

 この地に移り住む人、働く人、子を育てる人――暮らしの言葉を丁寧に紡ぎ、「九十九里」という地域の輪郭を描く対談シリーズ。

 第8回のゲストは、九十九里町を拠点に活動する創作和太鼓チーム「和太鼓 風-KAZE-」の稲垣葵さん・稲垣昌良さん夫婦。今年で活動20周年を迎える。リーダーを務める葵さんは九十九里出身、サブリーダーの昌良さんは千葉県八千代市出身で、共に太鼓と出合い、夫婦としてユニットを育ててきた。20年という時間の中で紡いできた音と、九十九里という土地への思いを聞いた。

稲垣夫婦 photo by Remi Fukuda

 ── 和太鼓「風」との出会い
 かのんぷ♪中村里衣(以下、里衣)「お二人がそれぞれ和太鼓と出合った経緯を教えてください」

 稲垣葵(以下、葵)「私は九十九里出身なのですが、『黒潮太鼓』という団体で、友人が習っていたのがきっかけです。太鼓そのものというより、友人と楽しく過ごすうちに加入して、少しずつのめり込んでいったという感じですね」

 稲垣昌良(以下、昌良)「小学校高学年の頃、母が太鼓を習いたいと言い出して、それに連れられて通っているうちに、自分の方がハマっていったという流れです」

 かのんぷ♪里衣「お二人とも、身近な人がきっかけだった」

 稲垣葵さん photo by Remi Fukuda

 ── 九十九里を拠点に選んだ理由、そしてブランディング
拠点を九十九里に置いた理由を聞いた。

 葵「自分が育った環境で、実家も九十九里町にあります。家族で一緒にやっていく中で、ココ以外の選択肢は頭に浮かびませんでした」

 かのんぷ♪中村大介(以下、大介)「いろいろな方に取材をしていると、『九十九里』を拠点として選ぶ方は意外と少ない印象があります。20年続けてきた今、九十九里からスタートして良かったと感じることはありますか。例えば『from 九十九里』という言い方は、認知されやすい面があるように思うのですが」

 昌良「そうですね。県内はもちろん、県外の方と交流する際にも、『九十九里町』と伝えると認知していただきやすいと感じます。『どこの海の近くだよね』と分かってもらえるので、そうした認知やブランディングという意味では良かったと思います」

稲垣昌良さん photo by Remi Fukuda

 ── 活動20年、続けてこられた理由 
20年間、活動を続けてこられた理由と、その間の試練について尋ねた。

 葵「20年続けてきて一番大事だと感じるのは、一緒にやっていく仲間の存在です。ただ、メンバーが減った時期もあり、悩んだことがあります。就職や結婚など、それぞれの人生の選択の中で、どうしても太鼓を続けることが難しくなる場面があって。太鼓をやりたくないということではなく、人生の選択として続けられなくなる。そこに向き合うのが一番難しかったと思います」

 かのんぷ♪里衣「バンドの脱退と同じかもしれませんね」

 昌良「本当にそうだと思います。僕らが持っている気持ちの高さと、メンバーそれぞれの熱量にはどうしてもバラつきが出てしまいます。アマチュアで活動している以上、そこを矯正するのは難しい部分ですね」

大太鼓を体験 photo by Remi Fukuda

 ── 大人と子ども、それぞれと向き合う稽古
チーム内での関係性についても聞いた。

 葵「子どもたちに対しては先生と生徒という形になりますが、大人のメンバーとはそうした関係というより、共に作り上げていくイメージ」

生徒には九十九里町周辺の子どもたちが多いという。

 葵「大網白里市など、近郊地域の子どもたちが多いです」

「風」が手がけるのは、伝統芸能としての和太鼓ではなく「創作和太鼓」というジャンルだという。

 昌良「厳密に言うと、僕らがやっているのは伝統芸能ではありません。和太鼓という伝統的な楽器は使っていますが、曲やパフォーマンスは自分たちのオリジナルで創作しているので、創作和太鼓というジャンルになります。歴史としてはまだ50年ほどと浅く、昔から祭りや神楽などで使われてきたいわゆる伝統芸能とは、少し違う位置づけです」

 かのんぷ♪大介「ニュージェネレーションのような感覚ですね」

 昌良「そうですね。その意味を込めて、『風』と名付けています。『新しい風を』という思いです」

かのんぷ♪も夫婦で活動している photo by Remi Fukuda

 ── 九十九里という土地が「音」に与えるもの
拠点である九十九里の風土が、表現にどう影響しているのかを尋ねた。

 昌良「オリジナル曲は僕や葵がそれぞれ作曲しているのですが、僕が作った大太鼓の組太鼓の曲に『RISE』という曲があります。日の出や夜明けをテーマにした曲で、九十九里町の日の出からインスピレーションを得て作りました」

アーティスト同士だからこそ共感できる photo by Remi Fukuda

 ── 生まれ育った九十九里、選んで根を張った九十九里
生まれ育った九十九里町について、葵さんに聞いた。

 葵「子どもの数が少なくなってきている一方で、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に暮らしている家族が多く、家族同士のつながりが強いと感じます。血のつながりがなくても、近所の方が一緒に成長を見守ってくれる。そうした温かさを、小さい頃から感じてきました」

一方、選んで九十九里に根を張った昌良さんにとっての九十九里はどのような場所か尋ねた。

 昌良「僕は高校生ぐらいの頃から、少しずつ九十九里に通うようになりました。出身は八千代市で、千葉県の中でも都市部に近い場所です。当時は電車もバスも便が悪く、高校生ながら電車とバスを乗り継いで、片道2時間ほどかけて通っていました。誘っていただいた先生のチームで一緒に活動するために、そこまでして通っていました」

 昌良「今はもう人生の半分ぐらいをこちらで暮らしています。地域のつながりの深さは、大きく感じますね。友人のお母さんも、面識がなくても気さくに話しかけてくれる。人との距離感が近いと思います」

 かのんぷ♪里衣「人が温かいですよね」

人の温かさに魅了される photo by Remi Fukuda

 ── 夫婦で同じ表現を続けるということ
夫婦でユニットを続ける難しさについても聞いた。

 葵「作曲などでイメージの違いがあり、なかなか折り合いがつかないこともあります。ただ、それ以上に、一緒に思いを共有して、挫折したときに一緒に頑張れることが、ここまで続けてこられた理由だと思います」

 かのんぷ♪里衣「本番前、話し合うことはありますか」

 葵「コンサートが1年に1回なので、作り上げなければというプレッシャーと、限られた時間の中で曲づくりに行き詰まると、意見がぶつかることはあります。ただ、本番が始まれば、それを引きずることはありません」

インタビュー photo by Remi Fukuda

 ── 次の世代へ、和太鼓の担い手を
次の世代への取り組みについて聞いた。

 昌良「小学生向けのジュニアチームや、幼稚園児向けのキッズチームでメンバーを募集していますが、九十九里町内で子どもの数自体が少なくなっているので、なかなか集まらないのが正直なところ。ただ、太鼓に限らず、ピアノでもウクレレでもダンスでもスポーツでも、この時期に学校とは違うコミュニティーに参加できたり、打ち込めるものがあったりすることは、子どもたちにとって豊かな経験になると感じています。その選択肢の一つとして太鼓を選んでもらえたらうれしいですし、そのためにも、学校や幼稚園での公演や体験の機会を増やしていきたいと考えています」

高齢者による太鼓活動の可能性についても話が及んだ。

 葵「千葉市など、もう少し都市部に行くと、体を動かす目的で太鼓を取り入れている施設もあるようです」

 かのんぷ♪大介「太鼓は、たたけば音が鳴るという意味でシンプルな楽器だと思います。振動が体に返ってくる心地よさは、お年寄りにとっても魅力的かもしれません。チームの子どもたちにとっても、お年寄りから知恵や愛情をもらえる場になれば、都会のチームにはない学びの場になりそうですね」

 昌良「そうですね。楽器としてはとてもシンプルなので、入り口のハードルは低いと思います。いろいろな方に体験していただけたらうれしいです」

迫力満点のパフォーマンス photo by Remi Fukuda

 ── 20周年の節目に、今、考えていること
20周年に向けた準備についても聞いた。

 葵「10月に20周年記念コンサートを開こうと、今準備しているところです。毎年コンサートは行ってきましたが、20周年ということで、いつもと違う演目に挑戦しようと、メンバーと試行錯誤しながら準備を進めています。大太鼓のコンテストは全国にいくつも大会があるのですが、そこに挑戦し始めたメンバーもいて、そこで得られるものも大きいと感じています」

コンテストへの挑戦は、稽古そのものにも変化をもたらしたという。

 昌良「コンテストに出るようになって、良い結果を出すためには太鼓の練習だけでは足りない部分が見えてきました。ある程度の筋力が必要だと感じたので、できる範囲で筋力トレーニングも取り入れるようにしています」

 かのんぷ♪里衣「太鼓をやっている方は、体つきもすごいですよね」

 昌良「全身運動になるので、力を使いますね」

体験 photo by Remi Fukuda

 ── 「可能性」 九十九里を一言で表すと 
最後に、九十九里町を一言で表してもらった。

 昌良「『可能性』という言葉です。無限に可能性があると思っていて。僕らも表現者として太鼓を使って活動していますし、九十九里町を盛り上げていきたいという気持ちで活動しています。九十九里町の中には、表現やアートや音楽、それ以外の分野でも、いろいろな才能を持った方がたくさんいると思う。それぞれの素晴らしい活動を、どこかで集まって発表できるようなイベントや企画ができたら楽しいだろうなと、勝手に考えています。そういう意味で、いろいろな可能性があるのではないかと感じています」

 かのんぷ♪大介「『可能性』…良い言葉ですね。今の子どもたちに、その可能性を一人一人感じてほしいですし、家族や周りの大人たちにも、『田舎だから』『子どもが減っているから』『習う場所がないから』ということではなく、可能性を信じてほしいと思います」

 昌良「本当にそうですね。本人にやる気があって、周りのサポートがあれば、できることはたくさんあると思います」

話は尽きない photo by Remi Fukuda


Interviewer:かのんぷ♪ 中村大介 中村里衣
Photo:福田玲美
Location:九十九里町 中央公民館(講堂)
 

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