特集

【九十九里と、編む。】
「大きな夢をくれた海」 片貝海岸のライフセーバー学生代表・関口瑠天さんに聞く、命を守る夏

 

 九十九里町観光大使・かのんぷ♪と、九十九里町地域おこし協力隊が取り組む連載企画
 かのんぷ♪×九十九里町地域おこし協力隊 特別企画 vol.7

【九十九里と、編む。】

 この地に移り住む人、働く人、子を育てる人――暮らしの言葉を丁寧に紡ぎ、「九十九里」という地域の輪郭を描く対談シリーズ。

 第7回のゲストは、九十九里町・片貝海岸でライフセーバーとして活動する関口瑠天(りゅうしん)さん。22歳、横浜出身。日本大学に在学しながら、毎年7月1日から8月31日まで九十九里に滞在し、学生代表として仲間を束ねる。今年で4回目の夏を迎えた関口さんに、この海で過ごした日々と、そこから芽生えた将来への思いを聞いた。

 ── ライフセービングを始めたきっかけ
 かのんぷ♪中村里衣(以下、里衣)「まず、ライフセーバーを始めたきっかけを教えてください」

 関口瑠天(以下、関口)「もともと兄がライフセービングをやっていて、自分は水泳を18年ほど続けてきました。そのスキルを何かに生かせないかと考えたときに、『兄もやっているし』という軽い気持ちで始めたのがきっかけです」

 かのんぷ♪中村大介(以下、大介)「ライフセービングというと、僕らのイメージだとかなり海のイメージが強いのですが、プールでの活動も?」

 関口「基本的には海がメインで、プールでの監視をサブとして行っている団体もあります」

多くの海水浴客でにぎわう photo by Remi Fukuda

 ── 片貝の海、九十九里を選んだ理由
 かのんぷ♪里衣「全国に海がある中で、片貝・九十九里を選んだ理由を教えてください」

 関口「ライフセービングができる浜であればどこでも良かったのですが、配属先として決められた場所が片貝でした。それで九十九里に来ることになりました」

横浜出身の関口さんにとって、初めて訪れた九十九里の印象は横浜とは対照的だったという。

 関口「横浜のようにビルが立ち並んでいたり、交通量が多かったりということが全くなく、地域の方と仲良くなれるくらいのコミュニティーがありました。過ごしやすい場所だと直感的に感じました」

一方で、海そのものの印象は「想像と大きく違った」と振り返る。

 関口「江の島や逗子で海に入ることが多かったので、それが自分の中の『海』のイメージだったのですが、九十九里に来てからは波が本当に高くて、正直怖いと感じました。障害物も多く、危険だと感じる場面もあります」

 かのんぷ♪中村大介(以下、大介)「その分、ライフセーバーとしての責任も、より強く感じる機会になったのではないでしょうか」

 関口「そうですね。江の島などで海水浴をする人たちよりも、気を付けなければいけない人が多いように思います。何かあったときに現場へたどり着くこと自体、簡単ではありません」

関口瑠天(りゅうしん)さん photo by Remi Fukuda

 ── ライフセーバーの「一日」 
 かのんぷ♪里衣「朝から夕方まで、具体的に何をしているか教えてください」

 関口「遊泳時間は土日と平日で異なりますが、土日は8時から始まるので、7時前に起きて準備をします。監視時間は8時から16時まで。その後18時ごろまでは自主練習の時間で、サーフィンをしたい人はサーフィンを、レスキューの練習をしたい人はレスキューの練習を、泳ぎたい人は泳ぐ、という風にそれぞれ分かれて過ごします」

 かのんぷ♪里衣「その自主練習が終わってからは、どう過ごしますか」

 関口「18時ごろに練習が終わってから、食事の準備や外食を済ませて、大体21時半ごろからミーティングを行います。翌日のシフトや、どこに人を配置するかを話し合って、その後は就寝です。この繰り返しですね」

勤務体系は3日勤務に1日休みと決まっているという。

 関口「休みの日は、一人だけで休むわけではなく、一緒に生活している4、5人のメンバーで出かけることが多いです。ディズニーランドや鴨川シーワールド、一宮町、成田市など、いろいろな場所に足を延ばします」

話が弾む photo by Remi Fukuda 

 ── 学生代表として感じる責任、将来の夢
 かのんぷ♪里衣「学生代表というポジションは、どう決まるのですか。どんな仕事があるのでしょうか」

 関口「学生代表とパトロールキャプテンの2人で、みんなを引っ張っています。どちらも推薦で決まる形です。パトロールキャプテンは監視中の現場のリーダーで、学生代表は監視の様子を見ながらアドバイスを出したり、救助が必要になった際に真っ先に現場に出たり、救急隊とのやり取りを担ったりする役割です」

 かのんぷ♪大介「プロのライフセーバーという道もあると思いますが、将来的には目指している」

プロのライフセーバーを目指しているのかを尋ねると、意外な答えが返ってきた。

 関口「ライフセービングを本気で仕事にしていくことは、あまり考えていません。もともと教員になりたくて日本大学に入学し、教育や道徳の授業を通じて『命』について学んできました。教員になりたいという思いからライフセービングを始めた面もあるのですが、活動を続ける中で、この経験を生かせる仕事として消防士を目指すようになりました」

 かのんぷ♪大介「助け方や怖さも含めて、絶対に知っておいた方がいい経験ですよね」

かのんぷ♪中村大介さんの地元九十九里 photo by Remi Fukuda

 ── 海に入る人たちを見ていて、思うこと
現場から見える、海を訪れる人たちへのまなざしについて聞いた。

 関口「サーファーの方や地元の方は、本当にこの海が好きという気持ちが伝わってきますし、誰よりも地形や波の形を知り尽くしています。心から尊敬しています」

注意を伝える際には、相手や状況に応じて言葉を選んでいるという。

 関口「よく『夏しか来ないだろう』と言われます。サーファーの方や地元の方など、冬でもずっとこの海に来ている方々からすると、『ここは自分たちの海だ』という思いがあるのだと思います。そうした方々の安全も含めて、海に入っている方全員を見守るのが私たちの仕事です」

離岸流や消波ブロックなど危険な状況によって、対応も使い分けているという。

 関口「消波ブロックの近くなど、明らかに危険な場所では退去をお願いしますが、そうでない場合は、こちらに移動してもらうよう気をつけて呼びかけるという形を取ります。遊泳区分には『遊泳可』『遊泳注意』『遊泳禁止』の3段階があり、遊泳注意のときは胸より上まで入らないよう案内することが多いです」

 かのんぷ♪里衣「実際、海での事故は多いですか」

 関口「沖に流されて自力で戻れなくなるケースが多いです。多い日で1日に3件ほど発生することもあります。ただ年によって地形や波の変化があり、今年は比較的落ち着いていますが、昨年は一日に何度も対応することもありました」

事故に遭う人には特徴もあるという。

 関口「若い方が多く、中でも大学生が一番多いです。それから、遊びに来た家族のお父さんが、お酒を飲んだまま海に入ってしまうケースもあります。熱中症や脱水症状につながることも多いですね」

ライフセーバーについて学ぶ photo by Remi Fukuda

 ── 横浜と九十九里、海の「空気感」の違い
 かのんぷ♪里衣「横浜の海と九十九里の海で、空気感の違いを感じますか」

 関口「波が穏やかな海で監視をする場合、7割ほど海を見て、3割ほど浜を見るというのが理想的な配分だと言われています。でも九十九里の場合は、浜も見なければいけないし、海はほぼ10割の意識で見ていないと、いつ人が波にのまれたり、沖に流されたりするか分かりません。その緊張感の違いは、横浜と千葉で大きく違うと感じます」

 かのんぷ♪大介「横浜にもビーチはありますか」

 関口「横浜にはありません」

 かのんぷ♪里衣「地域の雰囲気にも、違いを感じますか」

 関口「横浜は何かとせわしなく動いているイメージがありますが、こちらに来ると時間がゆっくり流れている気がします。暖かさも全然違いますね」

海岸を歩く photo by Remi Fukuda

 ── 命を守る仕事に就いて、変わったこと 
命を預かる現場に立ち続けて、価値観が変わったという。

 関口「大切な人や回りの人が、一瞬の出来事でけがをしたり、大変な事態になったりすることがあるのだと、ライフセービングを始めてから強く感じるようになりました」

 かのんぷ♪里衣「現場に出てから、その怖さがより身に染みた経験はありますか」

 関口「1年生のとき、監視所に座っていたら、浜で人が倒れて泡を吹いているという通報があり、現場に向かったことがありました。そうした出来事は、毎年1回は必ずと言っていいほど起こります。実際に体験することで、より一層その怖さを実感しました」

 かのんぷ♪大介「皆さんがそこまで意識高く、認識を共有できているのはすごいことですね」

 関口「何かがあった日は、必ず2時間ほどかけてミーティングを行い、情報を共有します。自分たちのエリア以外の浜からの情報も含めて共有するので、全員がその意識を持てていると思います」

晴天の下 photo by Remi Fukuda

 ── 7月~8月、九十九里での暮らし 
滞在中の暮らしぶりについても聞いた。

 関口「ライフセーバー用の宿のような一軒家で共同生活をしています。平屋で、部屋はそれぞれ分かれています。毎年ライフセーバーが借りている場所で、冬は練習の合宿で使うこともあります」

地元の方との交流について尋ねると、行きつけの飲食店での触れ合いを挙げた。

 関口「よく行く飲食店で、隣に座ったおばあちゃんに『また来たの?』と声をかけてもらうことがあります」

 かのんぷ♪大介「ライフセーバーは、海水浴客からすると、遊びを止められる存在という印象が強いのか、それともヒーローのような印象が強いのか、その辺りのバランスはどう感じますか」

 関口「正直なところ、地元の方には煙たがられている印象もあります。自分の感覚では、ヒーローだと思ってくれている方は2割ほどではないかと思います」

遊泳区域外で泳ぐ地元の方を注意することもあるが、その一つ一つの積み重ねを大切にしているという。

 関口「夕方、海水浴場ではない場所で家族と泳いでいる方に声をかけると、『分かってるよ』と言われることもあります。それでも、何かあったらという思いで、地道に伝え続けることを大切にしています」

 かのんぷ♪大介「地道に注意してくれていることは、実はありがたいことなんですよね」

監視塔で海の様子を観察 photo by Remi Fukuda

 ── この夏が終わったら 
関口さんは大学4年生。九十九里での夏は今年で4回目、最後の夏になる。

 かのんぷ♪里衣「この夏が終わったら、ライフセービングとの関わり方や進路について、どう考えていますか」

 関口「1年生の夏が終わってからも、翌年の夏に向けた練習会が月1回ほどあり、週2回ほど友人と九十九里に遊びに来て、海に入ったり練習したりしていました。厳しい環境で練習を積んだ経験は、高い波への対処法やレスキューの手順を学ぶ上で大きな財産になっていると思います」

卒業後の進路については、「消防士を志望している」と改めて語った。

 関口「消防の仕事は、火を消すことだけではありません。九十九里町の消防庫には、日本に数台しかない救助艇のような船も配備されています。ライフセービングでの経験は、これからもきっと生きていくと思います」

監視塔からはどのように見えるのか photo by Remi Fukuda

 ── 「大きな夢をくれた海」 九十九里を一言で表すと 
最後に、九十九里を一言で表してもらった。

 関口「自分に大きな夢を与えてくれたのが、九十九里です」

その夢とは、教員を志して日本大学に入学した関口さんが、ライフセービングを通じて新たに見つけた道だという。

 関口「九十九里でのライフセービングを経験してから、消防士として人を守りたいという思いを持つようになりました。もっと広いエリアで人を守り、監視する役に就きたいと思っています」

 かのんぷ♪大介「たくさんの方を、これからも守ってほしいと思います

話しは尽きない photo by Remi Fukuda

Interviewer:かのんぷ♪ 中村大介 中村里衣
Photo:福田玲美
Location:サンライズ九十九里
 

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