特集

【九十九里と、編む。】
「ここは一等地」 新宿から九十九里へ。直感と海と、人間らしい暮らし
土橋治子さんが語る、移住1年のリアル

青空の下で  photo by Remi Fukuda

 九十九里町観光大使・かのんぷ♪と、九十九里町地域おこし協力隊が取り組む連載企画
 かのんぷ♪×九十九里町地域おこし協力隊 特別企画 vol.2

【九十九里と、編む。】

 この地に移り住む人、働く人、子を育てる人――暮らしの言葉を丁寧に紡ぎ、「九十九里」という地域の輪郭を描く対談シリーズ。

 第2回のゲストは、2025年春に東京・新宿から九十九里町に移住した土橋治子さん。夫の定年退職を機に、長年「いつか」と思い続けた移住を実現。広大な太平洋と、数字の「9」への不思議な縁に導かれ、たどり着いたこの土地での暮らしについて話してもらった。

 ── 移住の決め手は、広い空と直感
 かのんぷ♪里衣「移住を九十九里に決めたのは、いつごろのことですか?」

 土橋治子(以下、土橋)「主人が定年退職とともに社宅を出なければならないのは、ずっと前から分かっていたことなので、いつかどこかへ移住しなければ、という気持ちは頭にありました。私も東京出身で、夏になると海に行きたくなる。主人も子どもの頃、海まで行くのが大変な場所で育ったので、海への憧れがあって…」

 かのんぷ♪大介「湘南や伊豆ではなく、九十九里だったのはなぜですか?」

 土橋「九十九里って、とにかく広いじゃないですか。一宮町からずっと、飯岡辺りまで。内房の海もきれいですが、この九十九里の広大さへの憧れがあって。関東近県でこんなに広くて、見渡せる海があるのはここだなって…」

 かのんぷ♪里衣「伊豆は半島が見えたりして、確かに景色が違いますよね。九十九里は太平洋ですから」

 土橋「そうですね。あとは、個人的に数字の9が好きで。九十九里って9が並ぶじゃないですか。主人の出身地にも9がつく地名があり、何となく自分は9に縁があると思っていて。どちらかというと直感で動く方なので、じゃあここにしましょうか、という感じでした」

 かのんぷ♪里衣「論理より直感、でも結果は大正解だったわけですね」

数字「9」に縁を感じる  photo by Remi Fukuda

 ── 「こんなに人間らしい暮らしができるとは」
 移住から1年。夫は定年退職後に再就職し、九十九里から東金駅経由で東京都内まで通勤を続けている。片道2時間、往復4時間の通勤生活。

 かのんぷ♪里衣「往復4時間の通勤が続いているのに、それでも九十九里の暮らしを選んでいる」

 土橋「主人が一言『こんなに人間らしい暮らしができるなら、もっと早くからこちらに来れば良かった』と言っていて…。4時間も通勤に取られているのに、それでもそういう言葉が出てくるので、私もよかったと思っています」

 かのんぷ♪大介「4時間の通勤時間は、本の読めない車と違って、仕事の準備や読書に使えるという考え方もありますしね」

 土橋「そうかもしれないですね。主人も、座れない時は立ちながらスマホを見たり、本を読んだり、仕事関係の書類を読んだりしているみたいです。もうすっかり慣れたとは言っていますけど」

 移住前に再就職先が東京になると分かったとき、「小さなマンションを購入して東京に残る」という選択肢もあったという。通勤は楽になり、東京にいる子どもたちとの距離も近い。それでも最後に背中を押したのは、土橋さん自身の意思だったという。

 土橋「そこでの決断の強さは、私の方が強かったかもしれない。主人も田舎の良さは知っているから、確かにねって。そして移住してから、あの一言が出てきたので…。良かったです」

東京と九十九里のグラデーションとは  photo by Remi Fukuda

 ── 庭で野菜を、海で夫婦でボディーボードを
 土橋「東京にいる頃の休みの日って、主人はずっと部屋に閉じこもって、テレビとスマホの前でカップラーメンを食べているような生活でした。こちらに来てからは、休みの日にテレビをつけないです。庭に出て、野菜や花を見たり、草むしりをしたり」

 かのんぷ♪里衣「昨年は夫婦で海に行って、ボディーボードしてましたよね」

 土橋「そう、不動堂の海に行って。主人は本当はサーフィンがやりたいんですけど、こちらに来てハマグリがおいしいし、パン屋さんにも行くし、車の生活で太ってしまって。こんな体型じゃウエットスーツも合わないっと言っていますけど、いつか挑戦したいみたいです」

 かのんぷ♪里衣「気にしない先輩サーファーも、ちゃんといますよ」

 土橋「本当ですか。一緒にやりたいですね」

言葉を交わす  photo by Remi Fukuda

 ── 「一等地」としての九十九里
 かのんぷ♪里衣「移住してみて、不便に感じることはありますか?」

 土橋「車生活で少し太ったことくらいです。コンビニにも歩いて行けるし、ドラッグストアも美容室も音楽教室も、歩いて行ける距離にあって。東京の感覚からすると、この生活環境はむしろ一等地だと思います」

 かのんぷ♪大介「確かに、田舎の人は車で5分の距離も歩かないことが多いですが、東京出身者は1駅分くらい歩くのは当たり前という感覚がありますよね」

 土橋「そうなんです。東京にいた頃の方が、よほど歩いていたかもしれない」

 医療についても、当初は心配していた面があった。しかし、コロナ禍に子どもが発熱して都内の病院をたらい回しにされた経験から「東京の病院だって、いざというときは大変」と感じている。さらに、自然豊かな環境でのストレスの少ない生活が、そもそも病気のリスクを下げるのではないか、という考え方も持つようになった。

 土橋「自然の中で暮らしていると、健康にはなっても、病気にはなりそうもない気がして」

楽しく  photo by Remi Fukuda

 ── 地域のつながりが、移住を豊かにする
 土橋「越してきた周辺には、昔からの地元の方より、いろいろなところから移り住んできた方の方が多いみたいで。隣の一人暮らしのおばあちゃんは10年前に東京から来たっと言っていたし、その隣のおじいちゃんは北海道出身だって。でも皆さん、気さくに話しかけてくださいます」

 かのんぷ♪里衣「九十九里では、『こんにちは』と声をかけたら、その後で会話が続くきますよね。いつ引っ越してきたの?って。東京ではなかなかない」

 土橋「隣が誰か分からないのが当たり前でしたからね、東京では。こちらに来てからは、何植えているの?とか、今日は風が強いね、とか。そういう何気ない会話があって、それが人間らしさかなと思います」

 長男が庭のカメを見つけ、近所のおばあちゃんに「たくさんいるから持って帰って」と声をかけてもらったエピソードも、地域の温かさがにじみ出る。「息子も、九十九里の人たちは気さくだと喜んでいます」と土橋さんは話す。

 ── 不便さに比例して、豊かになるもの
 かのんぷ♪里衣「移住を迷っている人に何と伝えますか?」

 土橋「できるなら、した方がいいよって、お勧めしてしまうと思います。バスはないし、車がないと生活しにくいというのは確かにある。でも、なければないで全然大丈夫。人混みがないだけで、ストレスが全然違う。新宿に戻ると、よくここにいたな、と思います」

 かのんぷ♪大介「不便さに比例して人間らしくなる、という感覚がありますよね、話を聞いていて」

 土橋「そうかもしれないです。便利さを極めると、座っていてもお茶が出てくる。でも4時間通勤している主人が『人間らしい』と言うんですから(笑)」

 ── 10年後、この海の前で
 かのんぷ♪里衣「10年後は、ここでどんな暮らしをしていたいですか?」

 土橋「あと4年は主人の通勤が続くので、65歳になったら本当に人でスローライフが始まると思っています。その時が楽しみで。おじいちゃんとおばあちゃんになっても、2人で海を眺めながら、ゆったりした時間を過ごせたらいいなと思っています。できればサーフィンも(笑)。九十九里でいろんな人とのつながりもできていくだろうし、それも楽しみです」

 かのんぷ♪里衣「けがをしないように(笑)」

 土橋「そうですね、けがは気をつけながら(笑)」

インタビュアーとして  photo by Remi Fukuda

 ── 九十九里を一言で表すと
 かのんぷ♪里衣「最後に。あなたにとって九十九里とは、一言で表すと?」

 土橋「……『人間らしさ』でしょうか。海を眺めているだけで、日々のストレス が一気に吹き飛ぶ感覚がある。ここに来ると自分に戻れる気がする。それが九十九里だと思います」

インタビュアーとして  photo by Remi Fukuda

Interviewer:かのんぷ♪ 中村大介 中村里衣
Photo:福田玲美
Location:Bonfire Beach Club
 

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