
九十九里浜で photo by Remi Fukuda
九十九里町観光大使・かのんぷ♪と、九十九里町地域おこし協力隊が取り組む連載企画
かのんぷ♪×九十九里町地域おこし協力隊 特別企画 vol.1
【九十九里と、編む。】
この地に移り住む人、働く人、子を育てる人――暮らしの言葉を丁寧に紡ぎ、「九十九里」という地域の輪郭を描く対談シリーズ。
第1回のゲストは、九十九里町で美容室「ka pilina(カピリナ)」を営む美容師の中村佐登恵さん。約20年前、結婚を機に成田市から九十九里に移り住み、2年ほど前に自宅で美容室を開業。ハワイ語で「絆」や「つながり」を意味する店名が示す通り、その暮らしと仕事の中心には、いつも人との結び目がある。
── なぜ九十九里で独立したのか?
かのんぷ♪里衣「なぜ九十九里で独立しようと思ったんですか?」
中村佐登恵(以下、中村)「災害が起きたときに子どもたちを守れるように、まずは家でやった方がいいかなと思って。九十九里で開業したかったというよりは、自宅で開業したかった、という気持ちに正直近いですね」
もともとは成田市の山側に暮らしていたが、23歳ごろに九十九里へ移り住み、以来20年近くがたつ。
かのんぷ♪里衣「では結果として、九十九里というロケーションが店をブランディングしていく上で後押しになったことはありましたか。例えば成田ではできなかったけれど、九十九里だったからこそ店のコンセプトが作りやすかったとか、遠くから海の近くまで来るついでに予約してくれるお客さまがいるとか」
中村「良かったです、10点満点で10! とにかくアットホームで。畑で採ったきた野菜を持ってきてくれたり、イワシを取ってきたよって言って届けてくれたりする。そういうつながりというか、温かさがすごくあって」
かのんぷ♪里衣「それはローカルならではのお客さまとの距離感ですよね。美容師ってそういう仕事でもあって、髪を切ることも目的だけれど、その人に会いに来る、という感じになっていく」
中村「ありがたいことですね」
また、千葉市内の先輩の美容室で週1回スタイリストとして働くことで、最新のトレンドを取り入れながら九十九里での仕事に生かしているという。
中村「一人でやっていると、どうしても不安もあるので。千葉に行って刺激をもらって、九十九里に帰ってきて、こういう手もあったかって取り入れたりしている感じです」
かのんぷ♪大介「自分も九十九里でレッスンしながら、千葉市や東京でもレッスンしていて、その感覚はすごく分かる。どちらかに偏るよりも、ローカルライフと都市部での新しい情報の取り入れ、そのバランスを自分で設計できることが、九十九里で起業した良い点の一つだと思う」

海岸で時間を過ごす photo by Remi Fukuda
── 敷地内同居という選択
義理の両親とは「スープの冷めない距離」で暮らす。同居の時期を経て、現在は敷地内に別棟を建て、近距離での生活を続けている。
かのんぷ♪里衣「義父母と距離が近いというのは、みんな基本的に嫌がるんですよね。でもそれって、本当は幸せなことで」
中村「そうなんです。例えば子どもの迎えに行けなくなったとき、すぐおじいちゃんおばあちゃんが行ってくれる。兄弟の一人がインフルエンザになったとき、もう一人を預けられる。もちろん大変なこともあるけど、敷地内同居って私はもうすごくいいと思っていて。それが最高の条件だと確信しています」
かのんぷ♪里衣「子どもたちにとっても寂しくないですよね。両親とは違う家族の愛情を受けられるから」

海岸を歩くロケーションも魅力の一つ photo by Remi Fukuda
── 美容師であることと、母親であること
かのんぷ♪里衣「美容師と母親、どちらかを優先にしていると感じる瞬間はありますか?」
中村「ありがたいことに、何もないんです。子どもの行事も習い事も、自分でやっているからこそ全部コントロールができる。子どもたちに不利を与えているとはあまり思わないし、自分がやりたいことに全力で注げている感覚があります」
かのんぷ♪里衣「そういう輝いている母を見て育つ子どもは、きっと輝くと思います。田舎でやりたいことをどんどんできる人が、都会よりいっぱいいると思っていて、そういう母を見て育った子どもたちはキラキラするはずです」
中村「幸せですね。輝いてほしいな」

言葉を交わす photo by Remi Fukuda
── 九十九里で育つということ
かのんぷ♪里衣「九十九里で育つ子どもたちを見て、どう思いますか?」
中村「公園よりも海に行く方が多くて、学校から帰ってきたら自転車で友達と海に行って砂浜を駆け回っていて。プールに行った後も海の景色や音を聞いて、癒やされているんだろうなって思います」
かのんぷ♪里衣「九十九里の子どもたちって、海がない地域が想像つかない。大人からすると、こんないい海がそばにあっていいよねって感じるけど、子どもたちはそれが当たり前で。でも『つまらない』とはあまり言わないですよね」
中村「そうなんです。ゴロンとするだけでいいらしいです(笑)」
かのんぷ♪里衣「都会から来た子どもはうちに来ると帰りたくなくなりますよ。海があって自然があって庭で遊んで、それだけで十分なんですよね。星もきれいだし」
中村「いいですよね。癒やし効果がありますね、海の近くって」

海がある photo by Remi Fukuda
── 店が、地域の拠点になる
かのんぷ♪里衣「店が地域の場所になっていると感じますか?」
中村「来てくれるお客さまが、また次のお客さまを連れてきてくれる。そのお客さまがまたお客さまを呼んでくれて、という循環の中で、来てくれた方同士が実はもともと知り合いだったということもよくあって。そういうつながりという意味では、地域の場所になれているのかなと思います。一番遠いところだと成田からも来てくれていますし、千葉市や八街からも。来てくれることがありがたくて」
かのんぷ♪大介「海に訪れる人と感覚が似ている気がして。例えば、サーフィンで海に入っている時間が30分でも、都会から1時間半かけて向かう道中は、もうサーフィンの気分になるじゃないですか。遠くから中村さんの美容室に来ようとしている方は、もう家を出た時点から美容モードになっていると思うんです。そういう体験を提供できているって、すごくいい仕事だし、地域としてもそういうことができているということだと思う」
中村「だからおいしい飲食店も紹介したくて。地域の拠点として、いろいろな店をつなぎたいです」
かのんぷ♪里衣「それがそれぞれの人と人とのコネクションでつながって、ウィン・ウィンになっていければいいですよね。こうやって集まった人たちがやっていく、それが一番大事だと思う」
── 九十九里に、もっとあってほしいもの
かのんぷ♪里衣「暮らしの面で、九十九里の不満や逆に十分だと感じることはありますか?」
中村「車がないと生活が難しいというのはあります。夜遅くまでやっている居酒屋が欲しいなとはすごく思っていて。はしごができるような横丁があったらいいんですけど、車なしではしごもできないし、代行を呼ぶしかなくて、それがきつくて。だから家飲みになってしまうんですよね」
かのんぷ♪里衣「早朝から夜遅くまでゲストをコーディネートできる場所が、今の九十九里にはないです。この時間帯なら遊べる、というのはあるけれど、早朝や夜にもてなせるスペースが確かにない」
中村「ショッピングモールができれば雇用も生まれて活性化するとは思うけれど、のどかな雰囲気が変わってしまうのもどうなんだろう、という難しさもあって。難しいですよね、そのバランスが」
かのんぷ♪里衣「マクドナルドとスタバは欲しいけどね(笑)。結局そのバランスで、一つ一つの積み重ねが地域を作っていく上ですごく大事なんだと思う」
── 子どもたちへ、この場所を
かのんぷ♪里衣「子どもたちに九十九里を継いでほしいと思いますか? 地元に残ってほしいとか、外に出てほしいとか」
中村「絶対はないです、正直なところ。でも帰ってきたくなる場所ではあると思うし、帰ってこられる場所にはしておきたいな、と思っています」
かのんぷ♪里衣「子どもたちが都会の大学に行って友達ができたとき、うちに連れてきてあげたいと思えるような環境づくりを、それぞれの家庭で意識しておけば、将来的に人が人を呼ぶ流れになると思う」
中村「息子が群馬にいるんですけど、どこから来たの?って聞かれて千葉県って答えると、千葉のどこ?ってなって、九十九里って言うと、分かってもらえるようで。それがうれしいって言っていて」
かのんぷ♪里衣「九十九里といえば誰でも分かりますよね。そこで初めて誇らしく感じられる。だから一回は外に出た方がいいんですよ。自慢になるから(笑)」
中村「そうですね(笑)」

楽しく photo by Remi Fukuda
── 九十九里で独立したこと、正解でしたか
かのんぷ♪里衣「九十九里で独立したこと、正解でしたか?」
中村「大正解です。結婚してこの土地に来たことが、正解でした。店の名前『カピリナ』というのがハワイ語で、「絆」とか「つながり」という意味で、最初は言葉の響きがかわいいと思って選んで。でも調べたらその意味が自分の店のイメージにめちゃくちゃ合っていると思って、それで決めました。人と人とのつながりがあって、自分もいられるし、子どもたちも幸せでいられる。だから、正解だったな、って」
── 九十九里を一言で表すと
かのんぷ♪里衣「最後に一つ。あなたにとって九十九里とは、一言で表すと?」
中村「……『絆』、じゃないでしょうか。やっぱり人と人とのつながりがあって、やっと自分もいられるし、子どもたちも幸せでいられるのかな、と思うので」

話は尽きない photo by Remi Fukuda
Interviewer:かのんぷ♪ 中村大介 中村里衣
Photo:福田玲美
Location:真亀海岸